遺産分割で強硬な主張をする相続人への対処法|理不尽な要求は拒否できる?
目次
はじめに:理不尽な要求に一人で悩む必要はありません
遺産分割の話し合いでは、相続人同士の感情的な対立から、話し合いが進まなくなることがあります。
「長男だから自分が全部相続する」
「親の面倒を見たのだから遺産を多くもらうのは当然だ」などと強く主張されたり、電話で怒鳴られたり、何度説明しても話を聞いてもらえなかったりするケースもあります。
しかし、相手が強く主張しているからといって、その要求を受け入れなければならないわけではありません。
遺産分割では、法定相続分を基本としながら、遺言の有無、特別受益や寄与分など、それぞれの事情を法律に基づいて整理することが重要です。
話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停・審判を利用できます。
つまり、強硬な主張をする方に納得までしていただく必要はありません。
強硬な相続人がよく主張する「理不尽な要求」のパターン
「親の面倒を見たのは自分だから全額もらう」
親の介護や事業の手伝いなどをしていた相続人が、「自分が親の面倒を見たのだから、遺産はすべて自分がもらう」と主張することがあります。
一定の場合には、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をしたとして「寄与分」が認められ、相続する割合に影響する可能性はあります。
しかし、親の面倒を見ていたという事実だけで、当然に遺産の全部を取得できるわけではありません。
寄与分が認められるためには、通常の親族間の扶養義務を超える、特別な寄与があったと客観的な証拠で証明される必要があります。
「家を継ぐ長男だから全て相続する」
現在の民法では、「長男だから」「家を継ぐから」という理由だけで、他の相続人より多くの遺産を相続する権利や、遺産を独り占めする権利が認められるわけではありません。
遺言などがない場合には、配偶者や子どもなど、それぞれの相続人について法律上の相続分(法定相続分)が平等に定められています。
長男であることだけを理由に、他の相続人の権利を一方的に否定することは法律上不可能です。
「お前は昔、親から援助を受けたはずだから遺産をもらう権利はない」
他の相続人から、「生前に親からお金をもらっているから、今回の相続で受け取る権利はない」と激しく責められるケースもあります。
生前贈与の内容によっては「特別受益」として遺産分割で考慮(持ち戻し計算)される場合があります。
しかし、親から受けた金銭的な援助がすべて特別受益になるわけではありません。
子どもへの通常の入学祝いや新築祝い、あるいは病気などで一時的に働けない子どもへの生活援助などは、原則として特別受益にはあたりません。
また、仮に高額な生前贈与があり、それがご自身の相続分を上回る「特別受益」であった場合でも、相続人としての地位そのものを失うわけではなく、もらいすぎた分を他の相続人に財布から出して返還する義務も原則としてありません。
相手から「もらいすぎた分を今すぐ返せ」と要求されても、応じる必要はありません。
相手の要求に屈してはいけない理由とリスク
相手から強く要求されると、「精神的に疲れたから、少しくらい譲って早く終わらせたい」と考えてしまうことがあります。
もちろん、互いに譲歩して合意すること自体に問題はありません。
しかし、十分に遺産の内容や自分の権利を確認しないまま安易に譲歩すると、後になって大きな後悔を残すことになります。
特に注意が必要なのが、遺産分割協議書への署名・押印です。
一度相続人全員が署名・押印して遺産分割協議が成立すると、最高裁判所の判例により、「相手が約束したお金(代償金など)を支払ってくれない」という債務不履行を理由に、遺産分割協議を一方的に解除することはできないとされています。
遺産分割をもう一度やり直すには「相続人全員の同意による合意解除」が必要になりますが、強硬な主張を繰り返していた相手がやり直しに同意する可能性は極めて低いと言わざるを得ません。
相手から署名や押印を急かされても、内容に少しでも疑問がある場合には、その場で絶対に応じないことが極めて重要です。
強硬な相続人に対する「正しい対処法」3ステップ
ステップ1:当事者同士での直接の話し合いをいったん止める
電話やLINEで何度話しても相手が怒鳴る、同じ主張を繰り返すなど、冷静な協議ができない状況では、直接のやり取りを続けることがかえって対立を深め、こちらの精神的な負担を増やすだけです。
そのような場合は、無理に結論を出そうとせず、連絡方法を手紙やメールなど「文字に残る形」に変更したり、弁護士などの専門家を窓口にしたりして、直接の接触を断つことを検討してください。
また、調停の申立ても検討すべきです。
ステップ2:法律上の権利関係を確認する
次に、感情を排除し「法律上、自分にはどのような権利があるのか」を客観的に確認します。
遺言がない場合には法定相続分が一つの基準になります。
特別受益や寄与分が問題となるケースでも、それらが法的な要件を満たしているか、また客観的な証拠によって裏付けられているかを基準に、具体的な相続分を検討する必要があります。
なお、混同されやすい「法定相続分」と「遺留分」は全く別の制度です。
遺留分は、遺言や生前贈与によって最低限保障された取り分(遺留分)を侵害された場合に、その侵害された金額を請求できる制度です。
相手の主張の「勢い」に惑わされず、法律と証拠を基準にして整理しましょう。
ステップ3:まとまらない場合は速やかに遺産分割調停を検討する
相続人同士で話し合っても合意できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では、裁判官や調停委員が双方の間に入り、資料や証拠を確認しながら、客観的な解決を目指して話し合いを進めます。調停で合意できない場合には、「審判」という手続きに移行し、裁判所が法律に基づいて分割方法を決定します。
ここで注意しなければならないのが近年の法改正です。
法改正により、相続開始の時(被相続人が亡くなった時)から10年を経過した後の遺産分割審判においては、原則として特別受益や寄与分の主張が認められなくなりました。
相手が強硬だからと話し合いを放置したまま10年が経過してしまうと、家庭裁判所の手続きであっても「相手の生前贈与(特別受益)」や「自分の介護の苦労(寄与分)」を一切考慮してもらうことができず、一律に法定相続分で機械的に分割されてしまいます。
従前は何年も放置されている遺産分割協議を多々見てきましたが、これからは、解決の兆しが見えない場合は、放置せずに早めに調停を申し立てることが重要です。
話し合いが通じない相手には弁護士への依頼が有効です
弁護士に依頼する最大のメリットは、弁護士を相手方との交渉窓口にできることです。 ご自身が直接相手から連絡を受ける必要がなくなり、精神的な負担を劇的に軽減できます。
また、相手方の「介護したから全部もらう」「長男だから全部もらう」といった理不尽な主張に対しても、法的な根拠や証拠があるのかを弁護士が冷静に見極め、毅然と反論します。
さらに、調停の申し立てや、先述した「10年の期限」を意識した迅速な手続きの進行、裁判所への適切な資料提出なども、すべて弁護士が代理することが可能です。
高知での相続トラブル解決事例・弁護士費用のご案内
遺産分割の解決方法は、相続人の関係、遺産の内容、不動産の有無、これまでの経緯などによって異なります。
実際にどのような方法で相続トラブルを解決しているかについては、当事務所の解決事例をご覧ください。
また、弁護士に依頼した場合の費用については、弁護士費用のページでご案内しています。
まとめ
遺産分割で相手が強硬な主張をしている場合でも、その要求をそのまま受け入れる必要は一切ありません。
重要なのは、相手の勢いに押されて判断するのではなく、遺産の内容や法定相続分、特別受益、寄与分などを整理し、法律と証拠をもとに対応することです。
特に、一度遺産分割協議書に署名・押印すると、後から内容を変更することは原則としてできません。相手から強く迫られている場合や、少しでも不安を感じる場合には、合意書にハンコを押す前に、ぜひ一度お気軽に弁護士へご相談ください。
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